エクステリアさくらの事務所で、皆様のささやかなお手伝いをしております、木村(仮名)でございます。
八月六日。 空の青さが一層深く、蝉の声が降るように響くこの日、わたくしは毎年、ほんの少しだけ、背筋を伸ばすような気持ちになります。 遠い昔、この国の同じ空の下で起こった、決して忘れてはならない出来事に、静かに思いを馳せるためでございます。
わたくしたちの仕事は、お客様の「暮らし」という、かけがえのない日常の舞台を創ること。 それは、家族の笑い声が響き、季節の花が咲き、時には静かに物思いにふけることができる、平和な毎日があってこそ、初めて成り立つお仕事なのだと、この日を迎えるたびに、改めて深く感じ入るのでございます。
先日、プランナーの高橋(仮名)が、あるお客様からお聞きしたという、心に残るお話をしてくれました。 それは、ご高齢の、とてもお上品な奥様からのご依頼だったそうです。
「大きなリフォームは、もう望みませんの。ただ、縁側から庭に下りる、この一段だけが、近頃どうにも怖くなってしまって。ここに、もう一段だけ、しっかりとした踏み台のようなものを、作っていただけませんこと?」
高橋が「もちろん、喜んで」とお答えすると、奥様は、少し遠くを見るような優しい目で、こう続けられたのだとか。
「昔、ここから庭に下りては、主人と一緒に、小さな家庭菜園をいじったものですわ。採れたきゅうりを、冷たい水で冷やして、二人で縁側で食べた夏の日のこと、今でも、昨日のことのように思い出します。今はもう、主人もおりませんが、あの日と同じように、もう一度、この手で土に触れてみたいのです」
それは、ただの段差の解消という、物理的なご依頼ではありませんでした。 奥様が、ご主人様と過ごされた、平和で、何気ない、しかし、かけがえのない日々の記憶。その愛おしい思い出の場所へ、もう一度安全に足を踏み入れたい、という、切なる「願い」だったのです。
わたくしは、そのお話を聞きながら、職人の鈴木(仮名)のことを思い出しておりました。 彼が、ウッドデッキや手すりを取り付ける時、最後に必ず、完成したものを自分の全体重をかけて、何度も、何度も、確かめるように揺する姿を。
それは、図面にも、仕様書にも書かれていない、彼自身の流儀です。 「俺たちの仕事は、そこに住む人の命を預かる仕事だ」と、いつもぶっきらぼうに、しかし、確かな誇りを持って口にする彼の言葉が、奥様のお話と重なりました。
私たちが創っているのは、ただの便利な設備ではございません。 おじいちゃんが、おばあちゃんが、そして小さな子どもたちが、昨日と同じように、明日も安心して「ただいま」と帰ってくることができる、安全という名の「平和」そのものなのかもしれない。 そう思うと、この仕事への責任と、ありがたさで、胸がいっぱいになるのでございます。
蝉の声を聞きながら、事務所の窓から外を眺めます。 子どもたちが、笑い声をあげながら、自転車で通り過ぎていく。 どこかのお家から、お昼ご飯の支度をする、おいしそうな匂いがしてくる。
なんでもない一日。 けれど、なんとありがたく、尊い一日でしょうか。
この平和な暮らしが、一日でも長く、この街に、そして皆様のもとに続きますように。 わたくしたちは、お庭の片隅から、今日も誠実に、暮らしの土台を創り続けてまいります。